Environmental History: Colonial Policy and Global Development
環境史アーカイブ第2集は旧英国植民地・英連邦地域を中心にアフリカ、南アジア、東南アジア、カリブ海沿岸地域の環境史関係の文書を収録します。収録文書は英国政府文書で、植民地省文書、外務省技術支援課、海外開発庁、海外開発省等、20世紀後半の植民地独立後の時代に旧植民地諸国や英連邦加盟国向けの開発援助政策を推進した政府省庁の文書を収録します。
植民地省文書に見る帝国諸地域における開発と環境保護
イギリス帝国における環境保護は世紀転換期にさかのぼります。1900年にアフリカにおける野生動物・鳥類・魚類の保護に関する条約が締結され、1933年にはアフリカ動植物保護国際会議がロンドンで開催、自然状態における動植物相の保護に関する条約が締結されました。しかし、動植物保護はイギリス帝国環境史の一側面でしかなく、植民地における開発と環境の関係をめぐり、様々な議論がなされ、政策が形成されました。植民地における開発と環境の問題が扱われたのが植民地省です。植民地省は包括的な植民地開発政策を打ち出すために、植民地研究委員会や各種諮問委員会を省内に設置する一方で、帝国森林研究所(Imperial Forestry Institute)、帝国熱帯農業研究所(Imperial College of Tropical Agriculture)、ロザムステッド試験場(Rothamsted Experimental Station)等の森林学や農学の学術機関と連携し、帝国販売促進委員会(Empire Marketing Board)を通じて研究助成を行いました。本アーカイブは植民地における開発と環境の関係に関する文書を収録する文書シリーズ CO 323、CO 852、CO 927 を収録します。この文書群は植民地開発政策の形成過程を明らかにするとともに、林業、鉱山開発、灌漑、土壌調査、熱帯病や農業や環境保全に関する研究、ココア、動物皮革、鉱物資源、木材等の商品と貿易に関する文書を通して、植民地支配が帝国諸地域の環境に与えた影響を明らかにします。地域的にはアフリカ、カリブ海沿岸地域、東南アジア、中東、地中海(マルタ、キプロス、ジブラルタル)、大西洋(フォークランド諸島他)、オセアニアの帝国諸地域が取り上げられています。
開発援助政策所管機関の文書に見る第二次大戦後の開発援助と環境保護
第二次大戦後、西側自由主義陣営は途上国に対する政治的影響力を行使するために、経済援助を推進します。マーシャルプランやコロンボプランに代表される経済援助スキームは冷戦下において、対象地域の経済復興を実現することで共産主義の波及を阻止する狙いを持っていました。帝国の解体に直面し、旧帝国諸地域との関係の再構築を迫られた英国も、開発援助に乗り出します。1961年に途上国への技術支援を所管する機関として技術支援局(Department of Technical Co-operation)が発足します。1964年の政権交代時には、労働党政権はより権限の強い海外開発省(Ministry of Overseas Development)を発足させ、開発援助の一元的運営を試みます。海外開発省(保守党政権下では海外開発庁)は開発援助政策を進める中で、途上国の環境問題にも直面しました。本アーカイブは1960年代初頭から1990年代初頭まで、開発援助に伴う環境問題に対処した海外開発省(海外開発庁)の部局の文書(9つの文書シリーズ)を収録します。収録文書は天然資源、エネルギー、環境汚染、自然災害、都市化、気候等、途上国の環境問題を広くカバーします。地域的にはアフリカ、南アジアから東南アジア、カリブ海沿岸地域、オセアニアまで、旧英国植民地や英連邦構成国をカバーします。この時代にはイギリス帝国時代と同様、学術機関が開発政策立案に関わりましたが、収録文書は熱帯作物研究所(Tropical Products Institute)、土地資源開発センター(Land Resources Development Centre)、海外害虫研究センター(Centre for Overseas Pest Research)等、環境に関わる学術機関の活動記録を含みます。第二次大戦後には政府機関だけでなく、ボランティア団体等の非政府機関やFAO、WHO、ユネスコ、世界銀行等の国際機関も開発援助に参画しましたが、収録文書は英国政府機関が途上国の環境問題に対処するに当たり、どのように非政府機関や国際機関と連携協力したのか、その実態を明らかにします。
《詳細カタログはこちら》
《ウェビナー録画を見る》
(約36分・チャプターあり、スライドはこちらから)
《収録コレクション:植民地省》
CO 323: Colonies, General: Original Correspondence (109 files, 1925-1940)
1933年、アフリカ動植物保護国際会議(International Conference for the Protection of the Fauna and Flora of Africa)がロンドンで会議され、自然状態における動植物相の保護に関する条約(Convention Relative to the Preservation of Fauna and Flora in their Natural State)が英国、フランス、ベルギー、イタリア、スペイン、ポルトガル、南アフリカ、エジプト、スーダンにより締結され、1936年に施行されました。本条約は国立公園の設置により特定種の動植物保護を試みました。本コレクションは国際会議開催に至る議論、条約締結に至る意思決定、条約が締結国に与えた影響、植民地支配国としての思惑に光を当てます。
CO 852: Colonial Office: Economic General Department and Predecessors: Registered Files (1988 files, 1935-1965)
約19万ページにおよぶ収録コレクション中最大のコレクション。通商、金融、工業開発から食糧・商品の供給と生産、関税、税制まで、植民地の経済政策に関わる広範囲の問題を管轄した植民地省経済総括局と前身部門の文書で、教育、土地利用、工業、農業、自然保護、森林から、錫、石炭、原油、トウモロコシ、木材、綿花等の資源の生産と貿易、さらには帝国内の栄養状態、国際捕鯨条約、スワジランド灌漑のための植民地開発会社、ボツワナの牛の牧場、セントルシアの電力問題まで、様々な主題に関する文書が収録されています。後半のファイルでは多くの部分が植民地開発会社、国際通商関係、米国の支援、国連に関するものです。
CO 927: Colonial Office: Research Department: Original Correspondence. Fauna (Wild Life) Nature Conservation. (5 files, 1954-56)
アフリカにおける狩猟用動物保護に関する文書に収録します。これ以前の時代の文書はCO 323とFO 881 に収録されています。
《収録コレクション:外務省》
FO 881: Foreign Office: Confidential Print (Numerical Series) (35 files, 1896-1916)
外務省機密文書集からアフリカにおける環境保護と野生動物に関する政策と法制化に関する35ファイルを精選収録します。アフリカにおける野生動物・鳥類・魚類の保護に関する条約(1900年)や狩猟動物法制に関する文書を収録します。
《収録コレクション:開発援助政策所管省庁》
ODシリーズは英国政府の海外支援計画を管轄した省庁関係文書を対象とする文書シリーズです。政権交代時の省庁再編により、当該組織の名称と規模と管轄領域は変化しましたが、保守党政権下では外務省傘下に置かれ、労働党政権下では独立した省として運営するというパターンが繰り返されました。海外開発支援を統括する独立した政府機関は1961年に創設した技術協力局(Department of Technical Co-operation)に始まります。1964年の総選挙で労働党が政権を取ると、技術協力局を継承する形で海外開発省(Ministry of Overseas Development)が発足します。1970年に保守党が政権に返り咲くと、海外開発省は外務省傘下の海外開発庁(Overseas Development Administration)として再編されます。1974年に労働党が政権を獲得すると、再び海外開発省が設置され、1979年に保守党が政権に返り咲くと、再び海外開発庁として外務省傘下に置かれます。
OD 25: Department of Technical Co-operation and successors: Natural Resources Department: Registered Files (NR Series) (Files 1-238, 240-243. 1963-71)
技術協力局と後継機関(海外開発省、海外開発庁)の自然資源局(後継機関を含む)の文書で、242ファイルを収録します。海外の農村開発や農業開発、自然資源の問題に加え、国連の食糧農業機関(FAO)の活動、アフリカやカリブ海沿岸地域における土地所有、1960年代における世界食糧計画、インド、英国、トリニダード・トバゴにおける人口政策に関する文書を収録します。
OD 45: Overseas Development Administration: Natural Resources Advisers Support Unit: Registered Files (NRA Series) (Files 1-44. 1970-1980)
海外開発庁自然資源諮問委員支援ユニットの文書で、44ファイルを収録します。
<収録文書(例)>
- 英領ホンジュラスの農業
- ナイジェリアへの農業支援
- フォークランド諸島と南極圏の漁業
- インドネシアの森林開発
- エクアドルの森林開発
- ガーナの協同組合運動
- エチオピアの協同組合運動
- カメルーンの土地所有
- パプア・ニューギニアの土地所有
- ニューヘブリディーズ諸島の土地所有
- セーシェル諸島の土地所有
- ケイマン諸島の土地所有
- 1971年4月開催の第3回途上国協同組合支援国際会議
OD 53: Overseas Development Administration: Eastern and Western Africa Department: Registered Files (EWA Series) (1-9, 11-149. 1981-1986)
海外開発庁東部・西部アフリカ課の文書で、148ファイルを収録します。セーシェル諸島、モーリシャス諸島、ジブチ、エチオピア、ケニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、タンザニア、中央アフリカ、コンゴ、ザイール(現コンゴ民主共和国)、ガボン、赤道ギニア、カメルーン、チャド、ニジェール、ナイジェリア、ベナン、トーゴ、ガーナ、オートボルタ(現ブルキナファソ)、コートジボワール、リベリア、シエラレオネ、ギニアビサウ、マリ、ガンビア、セネガル、モーリタニア、ケープヴェルデ(現カーボベルデ)への開発援助、エチオピアやケニアへの食糧支援と災害救援(1984-1985年)、アフリカ支援のためのポップスターによるバンドエイド等に関する文書を収録します。
OD 58: Overseas Development Administration and Ministry of Overseas Development: Natural Resources Research Department: Registered Files (NRR Series) 1-62. 1973-1987.
海外開発省(海外開発庁)の自然資源研究課(後継機関を含む)の文書で、62ファイルを収録します。途上国の自然資源の開発と保全に関する問題を研究する機関(世界銀行、世界保健機関(WHO)、熱帯開発研究センター(TDRI)、熱帯作物研究所(TPI)、海外害虫研究所(COPR)、土地資源開発センター(LRDC)、熱帯獣医学センター(CTVM))の研究への支援活動に関する文書を収録します。
OD 68: Ministry of Overseas Development: Rural Development Department: Registered Files (RD Series) 1-76. 1969-1981.
海外開発省(海外開発庁)の農村開発課の文書で、76ファイルを収録します。再生可能自然資源や農業従事者協同組合、人口抑制政策等、農村地域の開発及び関連の国際機関(国際農業開発基金等)との連携に関する文書を収録します。
OD 69: Ministry of Overseas Development and Overseas Development Administration: Disaster Unit: Registered Files (DIS Series) 1-33. 1974-1987.
海外開発省(海外開発庁)の災害ユニットの文書で、33ファイルを収録します。災害への備え、災害発生時のモニタリング、災害状況の調査、救援に関わる政府機関、非政府機関、国際機関との調整を任務とする災害ユニットの活動を記録する文書を収録します。
- カメルーン・ニオス湖の湖水爆発(1986年)
- ホンジュラスの洪水(1974年)
- バングラデシュの洪水(1974年)
- トルコ・リジェ地震(1976年)
- コロンビアのネバドデルルイス火山噴火(1985年)
- メキシコ地震(1985年)
- ソマリアの旱魃(1974年)
- スーダン西部におけるチャド難民流入(1980年)
- エルサルバドル地震(1986年)
OD 119: Overseas Development Administration and Successors: Health and Population Division: Registered Files 1-28. 1981-1991.
海外開発庁(後継機関を含む)の衛生人口課の文書から28ファイルを収録します。衛生、栄養、医療、人口、エイズ予防の支援政策に関する文書を収録します。
OD 139: Overseas Development Administration and Successors: Southern Asia Department; Registered files 1-120. 1987-1993.
海外開発庁(後継機関を含む)の南アジア課の文書から120ファイルを収録します。南アジアと周辺諸国(インド、パキスタン、アフガニスタン、ブータン、ネパール、バングラデシュ、ミャンマー、スリランカ)に対する開発援助政策に関する文書、具体的にはインドにおけるエイズ流行、バングラデシュにおける洪水防止や人口政策、パキスタンにおけるスラム街の再開発、南アジア地域全般における大規模建設プロジェクト、エネルギー開発計画等に関する文書を収録します。
OD 140: Overseas Development Administration and Successors: Natural Resources Division and Successors: Registered Files (NR Series) 1-26. 1986-1992.
海外開発庁(後継機関を含む)の自然資源課(後継機関を含む)の文書から26ファイルを収録します。農業、食糧安全保障、農村開発、協同組合、環境に関する政策、国際的な農業・環境研究への支援活動、再生自然資源の研究に関する文書を収録します。1987年以前の文書はOD 45とOD 58 に収録されています。
※ 収録コレクションのうち、CO 323, CO 852, CO 927, FO 881, OD 119, OD 139, OD 140 はファイルの一部、残りは2022 年10 月時点で公開済みの全ファイルを収録しています。
さらに詳しく
関連分野
- 植民地主義
- 経済学
- 環境研究
- 地理学
- 歴史学
- 社会福祉と公衆衛生
- 社会学
- サステナビリティ研究