George H. W. Bush and Foreign Affairs: The Moscow Summit and the Dissolution of the USSR
東欧諸国での民主化、ベルリンの壁の崩壊、マルタでの米ソ首脳会談での冷戦の終結宣言、イラクのクウェート侵攻、ドイツ再統一、湾岸戦争と、国際情勢が目まぐるしく変転する中、冷戦終結後の新しい国際関係を模索すべく、米ソ首脳はワシントンD.C.(1990年5月)、ヘルシンキ(1990年9月)、パリ(1990年11月)で会談を重ねました。そして、1991年の8月以降、世界の目はモスクワに注がれることになります。7月30日と31日、モスクワで米ソ首脳会談が開催され、両国首脳は第一次戦略兵器削減条約(START I)に調印しました。
そして、ゴルバチョフがクリミアで静養している8月18日、連邦解体に危機感を強めるソ連の保守派がクーデタを企てます。クーデタ情報は事前に漏れていて、民主派のモスクワ市長ポポフから駐ソ大使を通じて寄せられた情報を基に、ブッシュ大統領はゴルバチョフに警告を与えていました。クーデタはロシア共和国政府関係者や市民の反発を招き、失敗に終わりました。
クーデタ未遂事件を契機に、政治の主導権を握ったのはエリツィン率いるロシアの民主派、改革派です。これ以後、連邦を構成する共和国の独立の動きは加速し、バルト三国が独立、ウクライナも独立を宣言し、ソ連崩壊が現実味を帯びてきました。このような状況の中で、ソ連邦を維持させるかどうかをめぐり、アメリカ政府内では意見の対立が生じていました。11月にはエリツィンによりソ連共産党が非合法化され、12月にはロシアとウクライナとベラルーシの3ヵ国首脳がベラルーシのベロヴェーシで会談し、独立国家共同体(CIS)を設立することが合意され、ソ連の崩壊が決定的となりました。そして、12月25日、ゴルバチョフはソ連大統領を辞任し、ソ連邦は1922年以来の69年の歴史に幕を閉じました。
本コレクションはジョージ・H・W・ブッシュ大統領図書館の所蔵資料より、主として以下の3種類の文書を収録します。
1つ目は、1991年7月末の米ソ首脳会談から8月のクーデタ未遂事件にかけての時期の文書です。クーデタ発生以降、時々刻々とホワイトハウスのシチュエーション・ルームに送られてくる最新情報の記録やブッシュ大統領と外国首脳の電話会談の記録が収録されています。
2つ目は、ソ連邦解体に関する文書です。ブッシュ政権はソ連邦解体と独立国家共同体の創設について、旧ソ連の核兵器貯蔵庫の管理体制の観点から重大な関心をもって事態の推移を注視しました。また、民主的な政府や市場経済への移行、共和国の外交的承認、経済的・人道的支援についても、政権内で論議されていたことが収録文書から分かります。ソ連邦が崩壊に向かう中で、ホワイトハウスは議会要人や連邦省庁との意見交換、外部からの提言を基に、政策形成を行ないましたが、これらの意見交換や提言の記録も収録されています。さらに、ホワイトハウスの高官とソ連政府の高官の間で交わされた書簡も収録されています。
3つ目は、時間をさかのぼり、1989年12月のマルタでの米ソ首脳会談とブリュッセルでのNATO首脳会談に関する文書です。各国首脳との会談に先立ち、大統領の元には議員をはじめ様々な利害関係者から、特定のテーマを会談のアジェンダに盛り込むことを求める書簡が送られます。また、会談に臨む大統領には会談のアジェンダに関わる背景説明や論点を簡潔に説明したブリーフィング・ペーパーが提出されます。会談期間中に大統領は様々な場所でスピーチを行ないます。会談後は報道機関向けのプレスリリースが発表されます。
本コレクションには、これらの大統領宛書簡と返信、ブリーフィング資料、スピーチ原稿、プレスリリース等の文書が収録されています。これらの文書を作成するのはホワイトハウスのスタッフです。ホワイトハウスには国家安全保障会議を始めとする大統領直属の政策調整機関から議会対応やメディア対応を行なう機関まで、様々な組織が存在し、多くのスタッフにより運営されていますが、首脳会談に関わる諸々の事務的作業や大統領のためのブリーフィング資料やスピーチ原稿、報道機関向けの文書を作成するのは、これらのホワイトハウスのスタッフです。中でも、外交・安全保障政策に関しては、国家安全保障会議のスタッフが中心的な役割を担うため、本コレクションには国家安全保障会議のスタッフにより作成された文書が多く収録されます。
一般的に、アメリカの政策形成においては、行政府の省庁とともに、大統領補佐官を筆頭とする大統領に直属する大統領行政府(ホワイトハウス)の組織が大きな役割を果たしています。特に、20世紀末以降は、ホワイトハウスのスタッフの影響力が一層強くなっていると言われています。そのため、外交政策を分析するためには、国務省の文書だけでなく、国家安全保障会議のスタッフの文書にも目配りをする必要があります。
本コレクションには、マルタでの米ソ首脳会談からモスクワでの首脳会談を経てソ連邦解体にいたるブッシュ政権の対ソ連外交・安全保障施策が形成される現場を克明に記録する貴重な文書が目白押しです。なお、本コレクションに収録される文書は、情報公開制度に基づく開示請求により公開された文書です。
(マイクロ版タイトル:George H. W. Bush and Foreign Affairs: Part 1: The Moscow Summit and the Dissolution of the USSR)
《ジョージ・H・W・ブッシュと外交問題シリーズ》
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- モスクワ・サミットとソ連崩壊
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