Home Intelligence Reports, 1940-1944
20世紀の戦争は前線の軍隊だけでなく、銃後の市民を含む社会のあらゆる部門を戦争遂行のために再編し、国家の人的・物的資源を戦争遂行に総動員する総力戦として戦われました。とりわけ、参戦国の政府が注意を払ったのが国内の世論です。戦争遂行には武器弾薬と同様、市民の支持が必須であると考えた各国政府は、様々な手段を使って世論への介入を図りました。しかし、世論に介入し影響を与えるためには、市井の人々が何を考えているかを知らなければなりません。こうして政府は世論の把握に着手します。
イギリスで第二次大戦期にこの役割を担った省庁が情報省(Ministry of Information)です。情報省は一般大衆の社会意識を調査する機関として、国内諜報部(Home Intelligence Division)を1940年に創設し、市井の市民が何を考え、感じているのかを克明に記録し、これを週報(Weekly Report)として作成しました(当初は日報として作成)。
イギリスでは1937年に一般大衆の日常生活を記録するマス・オブザベーション(Mass Observation)のプロジェクトが人類学者や社会学者によって始まり、また同年にはイギリス世論研究所が創設されます。情報省の取り組みは直接的には、円滑な戦争遂行を目的とした政府による国内諜報活動ですが、この頃から本格化し始める社会意識調査、世論調査による社会の統治技法の一環としても位置付けることができます。
情報省は週報を作成するに当たり、様々な情報源を利用しました。その一つが国内の地方諜報員(Regional Intelligent Officer)からの報告です。情報省は国内に13の支部を設置し、各々の支部に地方諜報員を配置、地方諜報員は地元の実情に詳しい有識者や住民有志と連絡を取り合い、当該地域の住民感情の把握に努め、これを報告書にまとめ、情報省に送りました。また、マス・オブザベーションの調査結果も情報源として利用されました。その他、戦時社会調査部(Wartime Social Survey)、BBCのラジオ聴取者の調査等、多くの調査が情報源として利用されました。
調査内容は、政治家、新聞、イギリス公共放送(BBC)が報じる戦争に対する反応から、疎開、住宅事情、配給、罷業に対する意見まで、様々な領域に及びました。情報省の報告書は、第二次大戦期のイギリス政府の諜報活動の記録として、また市民感情の記録として極めて重要な価値を持っています。
(マイクロ版タイトル:Home Intelligence Reports, 1940-1944)