李鍾元先生

外交や安全保障の研究において政府省庁の文書は最も重要な一次史料です。中でも、機密指定解除文書は先行研究がアクセスできなかった文書を含み、通説の再検討を促す貴重な文書が含まれることも少なくありません。アメリカ政府機密指定解除文書集(U.S. Declassified Documents Online, USDDO)は約15万件の文書を搭載し、毎年約5,000件の文書が追加されるもので、米国連邦政府省庁の機密指定解除文書コレクションとしては最大規模を誇ります。その文書群は米国の外交・安全保障政策が関わるあらゆる地域をカバーし、20世紀から21世紀初頭までの外交史・国際関係史・冷戦史の歴史記述に寄与してきました。北東アジアの国際関係と安全保障についても同様です。

本オンラインセミナーでは、朝鮮半島を巡る国際関係と安全保障を長く研究してこられた早稲田大学教授の李鍾元先生をお迎えして、機密指定解除された米国外交文書に基づく冷戦終結期の日米韓の外交と北朝鮮核問題に関する研究成果をご紹介いただきます。

図書館員、学生、研究者、一般の方々など、皆様お誘いあわせの上、多数のご参加をお待ちしております。

◆ 日  時 : 2023年11月28日(火)午後3時~4時
《ご好評のうちに終了いたしました。》

 

録画・資料

上記をクリックするとセミナーの録画をご覧いただけます。(約55分・チャプターあり・質疑応答含む)

スライド資料(PDF)はこちらからダウンロードいただけます。

講演要旨

私は近年の研究テーマは、米ソ冷戦終結期(1980年代末~90年代初め)における日米韓の北東アジア外交が北朝鮮核問題の浮上とどのように関連し、またどのように対応したかについて、各国の外交文書に基づいて実証的に解明することであります。現在まで続く核問題の「起源」を探る歴史研究であると同時に、核危機の解決をめざす政策論的な研究の土台作業でもあります。現在の課題である北朝鮮核問題について「歴史研究」を試みることができるのは、韓国の外交文書の公開が1990年代初めの分まで進み、米国や日本の一次資料も少しずつ入手できるようになったからです。米ソ冷戦が終結し、北東アジアに新しい外交の地平が開いたときに、日米韓の3カ国の外交は、基本的には連携しつつも、競合する様相をも示していました。とりわけ、ソ連と北朝鮮に対する政策でそれは顕著でした。今回の講演では、韓国・盧泰愚政権の「北方政策」をめぐる米韓の思惑の違いに焦点を合わせ、それが朝鮮半島の第1次核危機の勃発にどのようにつながったかについて、米韓の外交文書をもとに、研究成果の一端を紹介することにしたいと思います。

講師プロフィール

 

李 鍾元(リー・ジョンウォン)

◆学歴:

東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(1988年3月)

東京大学大学院法学政治学研究科博士号(法学)(1996年11月)


◆略歴:

東北大学法学部助教授(1991年10月~1996年3月)

立教大学法学部助教授(1996年4月~1997年9月)

立教大学法学部教授(1997年10月~2012年3月)

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授(2012年4月~)


◆専門分野

国際関係論 


◆著書・論文:

・『東アジア冷戦と韓米日関係』(東京大学出版会、1996年)

大平正芳記念賞(大平正芳記念財団)、清水博賞(アメリカ学会)、アメリカ歴史家協議会外国語著作賞受賞

・富阪キリスト教センター(編)『北東アジア・市民社会・キリスト教から観た『平和』』(分担執筆)(燦葉出版社、2022年)

・広島市立大学広島平和研究所(編)『アジアの平和とガバナンス』(分担執筆)(有信堂高文社)(2022年)

・『沖縄から問う東アジア共同体―「軍事のかなめ」から「平和のかなめ」へ』(分担執筆)(花伝社、2022年)

・「韓国朴槿恵政権の北東アジア平和協力構想(NAPCI):韓国のミドルパワー論と地域主義外交の文脈を中心に」『アジア太平洋討究』(28) 1-23 2017年03月

・「日米韓トライアングルの初期形成―外交史と理論研究の交錯」『アジア太平洋討究』(33)2018年03月

・「トランプ・金正恩 それぞれの「誤算」-米朝首脳会談の構造と展望」『外交』(54) 93-99 2019年03月

・「金大中政権の「東アジア共同体」構想と日中韓協力―日韓関係との関連に注目して」『アジア太平洋討究』(36) 19-42 2019年03月

・「韓国・文在寅政権の地域主義外交と「新南方政策」――「インド太平洋戦略」と「一帯一路」の狭間のミドルパワー外交」『アジア太平洋討究』(39) 61-91 2020年03月

・「日韓対立の重層的構造と学術的課題」『学術の動向』25(9) 30-34 2020年09月

・「平和の思想と戦略としての地域形成―「東アジア共同体」への課題」『富坂キリスト教センター紀要』(11) 37-55 2021年03月

・「米国バイデン政権の北朝鮮政策と米朝核交渉の展望」『アジア太平洋討究』(41) 143-173 2021年03月

・「朝鮮半島核危機の前史と起源-冷戦からポスト冷戦への転換を中心に」『アジア太平洋討究』(44) 51-76 2022年03月

ほか多数